「東京狭山茶」と「狭山茶」の違いってなに?産地・歴史・味の特徴を日本茶専門店が徹底解説

「色は静岡、香りは宇治、味は狭山でとどめさす」

この歌で知られる日本三大銘茶の一つ、狭山茶(さやまちゃ)。

実はこの狭山茶の中に、「東京狭山茶」と呼ばれるものが存在することをご存知でしょうか?

「狭山って埼玉県の地名じゃないの?」

「東京でお茶が作られているの?」

そんな疑問を持たれる方も多いはずです。今回は、知る人ぞ知る希少なお茶「東京狭山茶」と、本家「狭山茶」の明確な違いについて、解説します。

結論:違いは「行政区分(産地)」にある

いきなり結論から申し上げますと、両者の最大の違いは「お茶の木が育った場所が、東京都か埼玉県か」という行政区分の違いです。

  • 狭山茶:主に埼玉県(入間市、所沢市、狭山市など)で生産されたお茶。
  • 東京狭山茶:主に東京都(瑞穂町、青梅市、東大和市など)で生産されたお茶。

実は、この2つの産地は県境を挟んで隣接しており、地理的には「狭山丘陵」周辺の一続きの茶産地です。土壌や気候条件はほぼ同じであり、兄弟のような関係と言えます。

なぜ名前が分かれているの?

もともとはどちらも「狭山茶」として親しまれてきましたが、近年の「地産地消」ブームや、2020年の東京オリンピックなどをきっかけに、「東京産の農産物(東京産食材)」としてのブランド価値が高まりました。

そこで、東京都側で生産された狭山茶をあえて「東京狭山茶」と呼び、差別化してPRする機会が増えたのです。

わかりやすい比較表:狭山茶 vs 東京狭山茶

両者の違いをひと目でわかるようにまとめてみました。

項目狭山茶(埼玉県産)東京狭山茶(東京都産)
主な産地埼玉県入間市、所沢市、狭山市など東京都西多摩郡瑞穂町、青梅市、東大和市など
生産量国内有数の産地であり、流通量は多い極めて少なく、希少性が高い
特徴「狭山火入れ」による濃厚なコクと甘み狭山茶のコクに加え、東京土産としての話題性
入手難易度スーパーや百貨店で比較的入手しやすい産地の直売所や一部専門店に限られることが多い

共通する美味しさの秘密:「狭山火入れ」

産地名こそ違いますが、両者に共通しているのは「味の狭山」と称される圧倒的な美味しさです。その秘密は、この地域特有の製法「狭山火入れ(さやまひいれ)」にあります。

1. 寒冷地だからこそ育つ「厚い葉」

狭山丘陵周辺は、茶産地としては北限に近く、冬は冷え込みます。お茶の木は寒さに耐えるために葉を厚くします。この肉厚な葉が、濃厚な成分を蓄えるのです。

2. 高温で炙る伝統技術

肉厚な葉の水分を飛ばし、旨味を引き出すために、他産地よりも高温でじっくりと熱を加えます。これを「狭山火入れ」と呼びます。

これにより、独特の香ばしさと、「甘くて濃厚なコク」が生まれるのです。これは、埼玉県産の狭山茶も、東京狭山茶も変わりません。

「東京狭山茶」が注目されている理由

近年、特に「東京狭山茶」がメディアやSNSで話題になることがあります。その理由は3つあります。

  1. 希少性(レア度)
    東京の農地は年々減少しており、茶畑も非常に限られています。「東京で作られたお茶」というだけで話のネタになり、ギフトとして非常に喜ばれます。
  2. 意外性
    「コンクリートジャングルの東京にお茶畑があるの?」というギャップが、Google Discoverなどのニュースフィードでも注目を集めやすいトピックとなっています。
  3. 歴史の深さ
    実は、東京都下(多摩地域)でのお茶作りは江戸時代から続いており、かつては主要な輸出産品でした。古い歴史を持つ伝統産業が東京に残っていることへの再評価が進んでいます。

まとめ:どちらも「狭山丘陵」が育んだ極上の一杯

「狭山茶」と「東京狭山茶」。

名前の違いは「埼玉側か、東京側か」という住所の違いであり、その根底にある「寒冷地で育った肉厚な茶葉」と「職人による火入れ技術」という魂は同じです。

  • 伝統と実績、手に入りやすさを重視するなら「狭山茶(埼玉)」。
  • 希少性や、東京土産としてのストーリーを楽しむなら「東京狭山茶」。

どちらを選んでも、他産地のお茶では味わえない「濃厚なコク」を楽しむことができます。