プロが教える「深蒸し茶」と「狭山茶」の美味しい淹れ方。鍵は”肉厚な茶葉”にあり

急須から注がれる、鮮やかなエメラルドグリーンの水色(すいしょく)。
口に含んだ瞬間に広がる、とろりとした濃厚な甘みと、鼻に抜ける香ばしい火香(ひか)。

これこそが、多くの愛好家を唸らせる「狭山茶」の真骨頂です。

しかし、ご自宅で淹れたとき、こんな経験はありませんか?

「お店で試飲したときはあんなに甘かったのに、家で淹れると渋みが勝ってしまう」

「色が薄く、特徴である”コク”が物足りない」

実は、東京狭山茶の主流である「深蒸し茶」を美味しく淹れるには、一般的な煎茶とは少し違う「あるコツ」が必要です。

その秘密は、関東の厳しい冬が育んだ「肉厚な茶葉」に隠されています。

今回は、茶葉を知り尽くした私たちが、誰でも失敗なく「最高の一杯」を再現できる、プロ直伝の淹れ方を徹底解説します。

なぜ、東京狭山茶の淹れ方は「温度」が鍵なのか?

淹れ方の手順に入る前に、まず「東京狭山茶の正体」を知ってください。ここを理解するだけで、お茶の味は劇的に変わります。

1. 寒さに耐えて育った「肉厚な葉」

東京狭山茶の産地は、経済的なお茶の産地としては「北限」に位置しています。冬の厳しい寒さを乗り越えるため、お茶の木は葉を厚くし、その内側に養分をたっぷりと蓄えます。

九州や静岡の温暖な地域の柔らかい茶葉に比べ、葉に厚みがあるため、少し高めの温度でも味が崩れず、むしろ力強いコクが出るのが特徴です。

2. 味を引き出す「深蒸し」と「火入れ」

肉厚な葉から成分を抽出するため、通常の2〜3倍の時間をかけて蒸す「深蒸し製法」が主流です。さらに、東京狭山茶最大の特徴である「狭山火入れ」と呼ばれる高温焙煎仕上げを行います。

つまり、美味しい淹れ方のゴールは、「肉厚な葉から旨味を溶かし出しつつ、火入れによる香ばしさを湯気とともに立たせること」にあります。

準備するもの(道具と茶葉)

深蒸し茶の微細な茶葉を受け止める、適切な道具選びがスタートラインです。

  • 急須:「深蒸し用」または「帯網(おびあみ)」タイプ
    • 深蒸し茶は茶葉が細かいため、通常の陶器の茶こし穴では詰まってしまいます。ステンレスの網が内側をぐるりと囲んでいるタイプがベストです。
  • 茶葉: 1人あたり約2〜3g(ティースプーン山盛り1杯強)
    • 「少し多いかな?」と感じるくらいが適量です。茶葉を惜しまないことが、狭山茶らしい濃厚さを生みます。
  • お湯: 水道水を使う場合は、必ず一度沸騰させてカルキを抜いてください。

【実践】プロ直伝!美味しい淹れ方の4ステップ

ここからは具体的な手順です。狭山茶の「火香(ひか)」と「コク」のバランスが最も良くなる黄金比をご紹介します。

ステップ1:湯冷まし(温度は75℃〜80℃)

ここが一般的な煎茶との最大の違いです。

玉露などは低温で淹れますが、狭山茶(深蒸し茶)は「少し熱め」が適温です。

  • 理由: 温度が低すぎると、肉厚な葉が開かず味が薄くなり、特徴である「火入れの香り」も立ち上がりません。
  • 目安: 沸騰したお湯を一度マグカップや湯呑みに注ぎ、そこから急須に移すと、適温(約75℃〜80℃)になります。

ステップ2:抽出時間は「短め」に(30秒〜40秒)

お湯を注いだら、急須を揺すらずに待ちます。

  • 抽出時間: 一般的な煎茶より短い30秒〜40秒で十分です。
  • 理由: 深蒸し茶は蒸し時間が長いため、茶葉の繊維がほぐれています。そのため、短時間でも一気に濃厚なエキスが抽出されます。長く置きすぎると渋みの原因になります。

ステップ3:廻し注ぎ(まわしつぎ)

複数人分を淹れる場合は、濃さが均一になるように注ぎ分けます。

「1→2→3」と注いだら、次は「3→2→1」と戻るように、少しずつ往復させて注ぎ切ります。

ステップ4:最後の一滴「ゴールデンドロップ」を絞り切る

ここが最も重要です。

急須を垂直に近い角度まで傾け、最後の一滴までしっかり絞り切ってください。

  • 重要性: この最後の一滴には、お茶の旨味が凝縮されており「ゴールデンドロップ」と呼ばれます。また、急須の中に水分を残さないことで、茶葉が蒸れすぎず、二煎目も美味しくいただけます。

よくある失敗と解決策(Q&A)

「なんだか味が決まらない」という時は、以下のポイントをチェックしてみてください。

悩み原因プロの解決策
色が薄い・水っぽい茶葉の量が少ない茶葉の量を1.5倍にしてみてください。肉厚な茶葉は、量が少ないと味が十分に出ません。
渋みが強すぎるお湯が熱湯のまま / 浸出時間が長い湯呑みで一度湯冷ましをするか、抽出時間を30秒に短縮してください。
急須からお茶が出てこない茶葉が網に詰まっている急須を振っていませんか?注ぐときは静かに傾けるだけでOKです。詰まる場合は急須を「帯網タイプ」に変えるのが近道です。

東京狭山茶は「熱めでサッと」が一番旨い

東京狭山茶・深蒸し茶の美味しさを引き出す鍵、それは「肉厚な茶葉」の特性に合わせた淹れ方です。

  1. 茶葉はたっぷりと使う
  2. お湯は75℃〜80℃(香りを立たせるために少し高め)
  3. 抽出は30秒〜40秒(短時間でサッと出す)
  4. 最後の一滴まで絞り切る

繊細に扱いすぎる必要はありません。この「少し熱めで、サッと淹れる」というリズムさえ掴めば、いつもの食卓が、ふくよかな香りと濃厚な緑に包まれる「癒やしの空間」に変わります。

ぜひ今夜の一服は、杉本園製茶の茶葉を使って、東京狭山茶本来の力強い味わいを堪能してみてください。

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